新刊紹介:『現代ミャンマーにおける社会支援の人類学:「協会(アティンアポェ)」をつくる』藏本龍介・土佐桂子(編著))- 2026/3/31

 


本書は、現代ミャンマーの人びとが、国家や国際NGOに依存するのではなく、自分たちの手でどのように支え合いの仕組みをつくってきたのかを明らかにしようとするものです。私たちが注目したのは、ミャンマーで広く見られる「協会(アティンアポェ)」と呼ばれる組織です。葬式支援、医療、教育支援、災害援助、宗教や文化の保護など、その活動は多岐にわたります。こうした協会の実態を、各地での現地調査をもとに描き出したのが本書です。

ミャンマーの「協会」は、単純に西洋的なNPOやNGOの枠組みで理解することはできません。ミャンマーでは、社会から寄付を集め、それを管理し、必要な人びとへと分配していく独特の仕組みが広く見られます。その背景には、仏教世界に深く根ざした「布施経済制度」があります。布施は単なる寄付ではなく、宗教的実践であると同時に、人びとを結びつけ、組織を支え、社会的な支援を成り立たせる基盤でもあります。本書では、この視点から、ミャンマー社会における支援のかたちを捉え直そうとしました。

そのため本書では、仏教協会だけでなく、葬式支援協会、瞑想センター、ムスリムの社会支援組織、少数民族地域の支援組織など、宗教や民族の違いをまたぐ多様な事例を取り上げています。ミャンマー社会の支援は、単に「困っている人を助ける」というだけでなく、倫理、功徳、共同性、地域社会の秩序と深く結びついています。そうした複雑で豊かな現実を、文化人類学の観点から具体的に描き出しています。

また、本書は現在のミャンマー情勢を考えるうえでも、重要な意味をもつと考えています。2021年以降の政変とその後の混乱のなかで、多くの協会が厳しい状況に置かれました。抗議運動の負傷者に医療支援を行ったことで弾圧の対象となった協会もあれば、活動の停止や縮小を余儀なくされた協会もあります。それでもなお、人びとのあいだで支え合おうとする実践そのものが消えたわけではありません。むしろ、こうした協会の存在は、ミャンマー社会の底にある連帯や、自発的に公共を担おうとする力を改めて浮かび上がらせているように思います。

ミャンマーというと、近年はどうしても政変や内戦、難民問題といった側面から語られがちです。しかし本書では、そうした大きな政治状況の背後で、人びとが日常のなかでどのように他者を支え、組織をつくり、社会を維持してきたのかに光を当てています。現代ミャンマーを、人びとの実践と倫理の水準から理解したい方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

本書の目次や内容説明は、明石書店HPをご覧ください。









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